
2025年9月3日、UAE(アラブ首長国連邦)の高官が、イスラエルによるヨルダン川西岸の併合を「レッドライン(越えてはならない線)」と強く警告しました。この発言は、イスラエルとUAEの関係を正常化した「Abraham Accords(アブラハム合意)」の精神を損なうものだと指摘しています。
事件の概要:UAEの警告とその背景
UAEの外務省政治担当次官補であるラナ・ヌッセイベ氏は、イスラエルがヨルダン川西岸を併合すれば、二国家解決(イスラエルとパレスチナが平和に共存する国家)の終わりを意味し、地域統合の追求を終わらせることになると述べました。この警告は、イスラエルの極右財務大臣ベザレル・スモトリッチ氏が、西岸の約82%を併合する提案を公表した直後に出されたものです。
スモトリッチ氏は「最大の土地を最小のアラブ人(パレスチナ人)で」という原則に基づく地図を提示し、パレスチナ国家の成立を「テロリスト国家」と呼んで拒否しました。
パレスチナ自治政府の外務省はUAEの立場を歓迎し、スモトリッチの計画を「パレスチナ国家への直接的な脅威」と非難。一方、イスラエル政府は公式コメントを避けていますが、ネタニヤフ首相の右派連立政権内では、欧米諸国のパレスチナ国家承認の動きに対する報復として併合を検討中です。
ヨルダン川西岸は、1967年の第三次中東戦争でイスラエルが占領した地域で、パレスチナ人が望む将来の国家の基盤です。現在、約160のイスラエル入植地に70万人のユダヤ人が住み、330万人のパレスチナ人と隣り合っています。これらの入植地は国際法で違法とされ、2024年の国際司法裁判所(ICJ)の勧告意見でも、イスラエルの占領は「違法」と認定されました。
UAEのこれまでの立ち位置:パレスチナ支援と現実的な外交
UAEは伝統的にアラブ諸国としてパレスチナ問題を重視してきましたが、2020年のAbraham Accordsでイスラエルと正式に国交を樹立。これは米国仲介によるもので、UAEのほかバーレーン、モロッコが参加しました。合意の鍵は、イスラエルが西岸併合計画を「停止」することでした。当時のネタニヤフ首相は計画を「棚上げ」したと述べましたが、完全に放棄したわけではなく、「テーブルに残っている」とも語っています。
UAEの立場は一貫して「二国家解決の推進」です。Abraham Accordsを結んだ理由として、ヌッセイベ氏は「パレスチナ人の正当な独立国家志向を支援するための手段」と説明。UAEは国連加盟147カ国のひとつとしてパレスチナ国家を認め、ガザ戦争(2023年10月7日のハマス攻撃以降)でも人道支援を積極的に行っています。
UAEの外交は現実的で、イスラエルとの経済・安全保障協力(例:防衛技術共有)を重視。ガザ戦争中も合意を維持しつつ、イスラエルを公に批判するバランスを取っています。
スモトリッチの提案とその問題点
スモトリッチ氏は極右の入植者で、西岸計画を統括。提案では西岸の82%をイスラエル主権下に置き、パレスチナ人をジェニン、トゥルカルム、ナブルス、ラマラ、ジェリコ、ヘブロンなどの孤立した飛び地に限定。ベツレヘムなどの都市は含まず、東エルサレムはすでにイスラエルが併合(国際的に未承認)。パレスチナ人は「自治政府を通じて生活を管理」するとしつつ、将来的に「地域市民管理」に移行すると述べていますが、これは実質的な支配強化と見なされています。
この計画は、2025年8月のガザ併合提案に続き、国際的に批判されています。イスラエル国内のシンクタンク「Ofek Centre」は、これを20世紀のアフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)と比較。国際人権団体も、西岸でアパルトヘイトが進行中と指摘しています。
国際反応:懸念の高まり
- UAEの警告の影響:Abraham Accordsの崩壊を警告し、トランプ政権(2025年現在)にも伝達。UAEは「合意の遺産を台無しにするな」と訴え、サウジとの平和協定も脅かされると指摘。
- パレスチナ側:自治政府がスモトリッチ計画を拒否。
- 欧米諸国:英国、フランスなどがパレスチナ国家承認を予定。ネタニヤフ氏はこれを「テロへの報酬」と批判。米国はトランプ時代に併合を2度阻止したが、現在の立場は未定。
- その他:J Street(米ユダヤ系団体)が非難。国際的に西岸入植拡大(例:E1地域プロジェクト)が怒りを呼んでいます。
この警告は、UAEがイスラエルとの関係を維持しつつ、パレスチナ問題で譲れない線を示した象徴です。
Abraham Accords(UAEとイスラエルの国交正常化の合意)は中東の経済統合を促進しましたが、併合が進めば崩壊のリスクが高まります。ガザ戦争の余波で、地域緊張が高まっており、二国家解決の道筋がさらに遠のく可能性があります。
UAEは平和の橋渡し役を自任していますが、イスラエルの極右勢力の動向が鍵を握ります。
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