
中東情勢はアメリカによるイラン核施設への攻撃(6月22日)とイランの報復としてカタールの米軍基地へのミサイル攻撃(6月23日)により緊迫し、イランがホルムズ海峡を封鎖する可能性が懸念され、世界の石油供給に大きな影響が予想され一時的に混乱が生じました。
UAEでは、兼ねてよりホルムズ海峡のリスクを回避するため、フジャイラ港に伸びる石油パイプラインを設置し、既に運用されています。日本はUAEからの石油輸入に大きく依存しているため、フジャイラの役割や日本がどの程度優先されるのかが重要です。この記事では、ホルムズ海峡封鎖時のフジャイラの石油輸出と日本の立場をわかりやすく解説します。
ホルムズ海峡封鎖のリスクと日本への影響
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ狭い海峡で、世界の原油の約20%(1日約2,100万バレル)がこのルートを通ります。イランがこの海峡を封鎖すると、UAE、サウジアラビア、カタールなどからの石油輸出が大幅に制限され、原油価格が急騰する恐れがあります。日本はエネルギーの約95%を中東に依存し、UAEは主要な供給国の一つ(2023年で年間約5,750万キロリットル)。封鎖が起これば、ガソリンや電気代の上昇、さらには経済全体への影響が懸念されます。
ホルムズ海峡封鎖危機は何度目?
ホルムズ海峡の「封鎖危機」とは、実際に完全に封鎖されたわけではないものの、その懸念が高まった事例を指します。過去には何度か封鎖の危機が報じられ、国際的な緊張が高まってきました。主な事例は以下の通りです。
- イラン・イラク戦争(1980年~1988年): 「タンカー戦争」と呼ばれ、両国が互いの石油輸出を妨害するため、ペルシャ湾を航行するタンカーへの攻撃や機雷の敷設が行われ、緊張が高まりました。
- イラン核開発を巡る国際制裁(2011年~2012年): イランの核開発に対する欧米の経済制裁に対し、イランがホルムズ海峡の封鎖を警告しました。
- 第一次トランプ政権による核合意離脱と制裁再開(2018年): アメリカのトランプ政権がイラン核合意から離脱し、制裁を再開した際、イランが海峡封鎖の可能性に言及しました。
- タンカー攻撃事件(2019年): オマーン湾やホルムズ海峡付近でタンカーへの攻撃事件が複数発生し、地域情勢の緊張が高まりました。
- 2025年6月の情勢緊迫化: 米国によるイラン核施設への空爆を契機に、イラン国会がホルムズ海峡封鎖を求める方針を承認したと報じられました。最終的な決定は、最高安全保障委員会または最高指導者ハメネイ師に委ねられるとされていますが、再び封鎖の可能性が議論され、原油価格の高騰や物流への影響が懸念されています。
フジャイラ港とUAEのパイプラインの役割
UAEのフジャイラ港は、ホルムズ海峡を避けて石油を輸出できる中東でも数少ない戦略的な港です。UAE東部のオマーン湾に面し、インド洋に直接アクセスできるため、封鎖時でも石油輸出を継続できます。この港を支えるのが、ハブシャン-フジャイラ石油パイプライン(ADCOP)です。このパイプラインの特徴は以下の通り:
- ルートと容量:アブダビの油田からフジャイラ港まで約400kmを結び、1日最大180万バレルの原油を輸送可能(Habshan–Fujairah oil pipeline – Wikipedia)。
- 目的:2012年に運用開始され、ホルムズ海峡のリスクを軽減する戦略的インフラとして設計。
- 貯蔵施設:フジャイラには中東最大級の石油貯蔵施設があり、原油やガソリンなどの精製品を貯蔵・積み替え可能(Port of Fujairah)。
フジャイラは、アブダビ国営石油会社(ADNOC)や中国のSinopecなど、主要な石油会社が利用する国際的なハブで、特にアジア市場向けに最適化されています。UAEの原油輸出の50~70%がフジャイラ経由と推定され(UAE Embassy)、日本への供給もその多くがこのルートを利用しています。
フジャイラ港の利用と残るリスク
ホルムズ海峡の封鎖リスクを回避するため、ペルシャ湾の外側に位置するフジャイラ港は重要な選択肢となります。この港を利用することで、ホルムズ海峡の物理的な封鎖(機雷敷設など)の影響を直接受けにくく、イランとの直接的な衝突の危険性が、ホルムズ海峡内よりは低いとされます。
しかし、これまでにオマーン湾内でタンカーへの攻撃事件が複数発生ししています。この事実は、ホルムズ海峡を通過しないルートを選んだとしても、この地域全体の地政学的リスクから完全に逃れられるわけではないことを示しています。
フジャイラ沖オマーン湾での主なタンカー事件
- 2019年5月: フジャイラ沖で4隻のタンカーが爆発物で損傷。
- 2019年6月: ホルムズ海峡近辺で2隻のタンカーがリンペットマインで攻撃。
- 2021年8月: フジャイラ東60海里でアスファルトタンカーがハイジャック。
- 2022年11月:オマーン沖でタンカーがドローン攻撃を受ける。
- 2023年7月: 2隻のタンカーへのイランによる押収未遂がアメリカ海軍により阻止。
- 2024年1月: ソハル近辺で石油タンカーがイラン海軍に押収。
フジャイラ港を利用する場合でも、以下のリスクが残ります。
- オマーン湾全体の不安定性: ホルムズ海峡を抜けた先のオマーン湾自体が、地域情勢の緊張や特定の勢力による攻撃の標的となる可能性があります。
- 広範囲な影響: たとえホルムズ海峡が封鎖されなくても、その周辺海域、特に石油輸送にとって重要なオマーン湾で大規模な紛争や攻撃が発生すれば、航行の安全が脅かされ、保険料の高騰や運航の中断など、実質的な「封鎖」に近い影響が生じる可能性があります。
- 報復攻撃のリスク: 地域情勢が緊迫した場合、フジャイラ港のような戦略的要衝も攻撃の対象となるリスクを完全に排除することはできません。
したがって、フジャイラ港はホルムズ海峡のボトルネックを回避する上で重要な代替ルートではありますが、中東地域の複雑な地政学的リスク全体を考慮する必要があります。エネルギー安全保障を考える上では、複数のリスク要因を複合的に評価し、多角的な対応策を講じることが引き続き重要です。
フジャイラから石油を輸入している国
フジャイラは主にアジア市場向けに原油を供給しており、2024~2025年のデータに基づくUAEの主要輸出先は以下の通り:
- インド:トップ輸入国で、UAEとの包括的経済連携協定(CEPA)により優遇。
- 中国:Sinopecがフジャイラでターミナルを運用し、大量輸入。
- 日本:UAEの主要輸出先(4位)で、長期契約に基づく安定供給。
- 韓国:重要な輸入国(5位)だが、インドや中国に比べやや優先度低い。
- その他:パキスタン、アルゼンチン、タンザニア、ウガンダなど。
フジャイラの輸出は、UAEの総原油輸出(約265万バレル/日)の約36~68%を占め、特にアジア向けに重点が置かれています。
日本がフジャイラから輸入する割合
日本のUAEからの原油輸入量は、2023年で約5,750万キロリットル(約1億バレル、1日約27.4万バレル)と推定されます。UAEの輸出は主にJebel Dhanna港とフジャイラ港から行われますが、フジャイラはアジア向け輸出の主要ルートです。ADCOPパイプラインがUAEの輸出の50~70%を担うと推定されるため、日本の輸入も同様に50%以上がフジャイラ経由と考えられます。具体的な割合は公開データがないため推定ですが、UAEの輸出構造から見て、日本のUAEからの石油輸入の50~70%がフジャイラ港を利用していると推測されます。
ホルムズ海峡封鎖時の優先権:日本はどうなる?
ホルムズ海峡が封鎖されると、フジャイラのパイプライン(最大180万バレル/日)がUAEの主要な輸出ルートとなり、各国がこの供給を求めることになります。どの国が優先されるかは以下の要因で決まります:
- 貿易協定:
- インド:2022年のUAE-インドCEPAにより、関税削減や市場アクセスの優遇があり、優先度が高い(UAE Ministry of Economy)。
- 中国:Sinopecのフジャイラでの運用と大量輸入により、優先される可能性が高い。
- 日本・韓国:長期契約と信頼関係に基づき、安定供給が期待されるが、インドや中国に比べやや優先度が低い可能性。
- 地政学的要因: UAEはアジア市場を重視し、日本との関係も強化中です。2023年の日UAE首脳会談でエネルギー協力が確認されており、日本は安定供給のパートナーとして優先される可能性があります。
- 供給能力の限界: フジャイラのパイプライン容量はUAEの総輸出量の約68%に相当し、需要急増時には供給が制限される可能性があります。この場合、既存契約に基づき、インド、中国、日本、韓国が優先されると予想されます。
日本の優先権の見込み
日本はUAEの主要な輸入国(4位)であり、ENEOSや出光興産などの企業が長期契約を結んでいます。ホルムズ海峡封鎖時、フジャイラからの供給は日本にとって重要ですが、インド(CEPAの優遇)や中国(Sinopecの運用)に比べるとやや優先度が低い可能性があります。それでも、長年の信頼関係と日本のエネルギー需要から、日本は一定量の石油を確保できると見込まれます。
日本人への影響と対応策
ホルムズ海峡封鎖は、日本でエネルギー価格の上昇や供給不安を引き起こす可能性があります。UAE在住の日本人にとっても、生活コストの上昇や地域の不安定さが懸念されます。以下の対応策が役立ちます:
- 情報収集:在UAE日本大使館(www.uae.emb-japan.go.jp)や日本外務省(www.mofa.go.jp)で最新情報を確認。
- 生活対策:ガソリンや電気の節約で価格高騰に備える。
- 企業向け:代替供給元(例:アメリカ、オーストラリア)や再生可能エネルギーの活用を検討。
ホルムズ海峡封鎖時、UAEのフジャイラ港とハブシャン-フジャイラパイプラインは、日本のエネルギー供給を支える重要なルートです。フジャイラはインド、中国、日本、韓国などに石油を供給し、日本のUAEからの輸入の50~70%がこの港を利用していると推定されます。封鎖時にはインドや中国が優先される可能性が高いですが、日本も長期契約と信頼関係から一定の供給を確保できる見込みです。
封鎖の可能性は極めて低いですが、リスクを知ることは今後の対応策に繋げることができます。
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