アラブ首長国連邦(UAE)は、ここ数年で国際舞台での影響力を急速に拡大しています。経済、外交、安全保障など多岐にわたる分野での活動を通じて、地域および世界における重要なプレーヤーとしての地位を確立しています。
そんなUAEの2024年現在の、国際的な立ち位置をまとめてみました。
ロシアのウクライナ侵攻に対する立場
UAEはロシアのウクライナ侵攻に対して中立的な立場を取っています。国連安全保障理事会での投票において、ロシアの侵攻を非難する決議案に棄権し、ロシアとの経済的および政治的関係を重視する姿勢を示しています。UAEはロシアとの強固な経済関係を維持し、特にエネルギー分野での協力が顕著です。また、観光業や投資分野でも密接な関係を保っています。
ロシアにとっては、欧米・西側諸国からの制裁により絶たれた貿易ルートを、UAEを通して補う状態になっており、UAEにとっては割安になった資源を輸入できるなど経済的な影響の恩恵を受けているといえます。
UAEはロシアから石油および石油製品を輸入しており、ウクライナ侵攻後に輸入量は増加しています。
ロシア産石油の大半はUAEがエネルギー流通のハブとなり、東部のフジャイラ港からアジアやアフリカ、南米に再輸出されていると言われています。
金(Gold)の輸入に関しては、2021年には、ロシア産の金の輸入はわずか1.3トンだったものが、ウクライナ侵攻後1年間で、75トンに増加しており、UAE(特にドバイ)にとってはアフリカ諸国に次ぐ金の輸入国となっています。
ウクライナとの関係
UAEはロシアの侵攻に対して公に非難することは避けつつも、ウクライナとの間で貿易協定を締結し、戦後復興支援を約束しています。この包括的経済連携協定(CEPA)は、両国の貿易障壁を取り除き、ウクライナの主要輸出品の供給チェーンを強化することを目的としています。
UAE大統領とウクライナ大統領の間では、ロシアのウクライナ侵攻に関する最新の進展について話し合いが行われました。UAEは、中立的な立場を取りながらも、政治的解決を目指すための対話を推進しています。
イスラエルとの関係
UAEは2020年8月にイスラエルとの関係正常化協定(アブラハム合意)を締結し、これにより両国間の経済協力が大幅に強化されました。この合意は、中東の政治地図を再編成する重要な出来事であり、観光業、技術、防衛分野での協力が進んでいます。
経済的な関係に関しては、2023年にはダイヤモンドの取引が年間1.75億ドルに達し、163%の増加を記録。
地域の安全保障や政治的な協力を強化するために連携しており、特に、イランの影響力拡大に対する共通の懸念から、安全保障面での協力が進んでいます。
しかし、2023年にはガザ地区での紛争がエスカレートし、UAEは複雑な立場に立たされています。特にハマスの攻撃による死傷者の増加は、UAEとイスラエルの関係にも影響を与えているようです。
中東情勢への関与
UAEは中東地域の安定を追求し、特にテロ組織や過激派勢力に対して厳しい姿勢を取っています。サウジアラビア主導の連合軍に参加し、イエメン内戦に介入することでイランの影響力拡大を抑制しています。また、シリアやリビアの紛争に対しても積極的に関与し、地域の安定を目指しています。これらの行動は、UAEが中東地域における重要なプレイヤーとしての地位を確立するための一環と見られています。
中国との関係
UAEは中国との関係も強化しており、「一帯一路」構想を通じて経済協力を拡大しています。UAEは中国の主要な貿易パートナーであり、中国はUAEのエネルギー輸出の主要な受け入れ国です。
2023年にはUAEと中国の空軍が初の共同軍事訓練を実施し、防衛関係を強化しました。この訓練は、両国間の防衛協力がさらに深化することを示しています。
技術やインフラ分野での協力も進んでおり、両国間の関係は経済だけでなく政治的にも深まっているといえます。
欧米諸国との関係
UAEは、ロシア、中国との経済的な繋がりを維持しつつ、欧米諸国との関係も維持しており、UAEは中東・北アフリカ地域で米国の最大の輸出市場になっています。また、米国にとって主要な安全保障パートナーであり、すべての国際的な安全保障連合に米国と共に軍隊を派遣しています。近年、アメリカの中東における軍事的関与が減少する中、UAEは他の地域大国との関係を多様化させることで、安全保障と経済利益を最大化しようとしています。
UAEはまた、欧州連合(EU)やその他の国際機関とも緊密に協力していますが、UAEのロシアに対する経済的な交流に対し、制裁効果に影響がでるなど懸念と共に停止するようにと圧力をかけられています。
日本とUAEの関係
日本とUAEの関係は、経済、技術、文化など多岐にわたる分野で深化し続けています。
経済
UAEは2024年4月時点で日本の第一位の石油供給国であり、安定したエネルギー供給を行っています。また、天然ガスとアルミニウムの重要な供給源でもあります。
2023年には日本とUAEの間で包括的戦略パートナーシップ協定(CSPI)が締結され、これにより経済、貿易、技術、宇宙、教育などの分野で協力が強化されています。
技術
2023年7月、岸田文雄首相とモハメド・ビン・ザイド大統領は、日本とUAEのイノベーションパートナーシップ(JUIP)を発表しました。これは、先端技術、エネルギー安全保障、産業加速、半導体およびバッテリー産業に関する協力を含む三つの柱から成り立っています。
宇宙開発
宇宙開発も両国間の重要な協力分野です。日本の種子島宇宙センターから打ち上げられたUAEの「ホープ・プローブ」が2020年に火星に到達しています。この成功は、両国間の宇宙開発における協力の一例です。
経済関係の多様化
UAEは経済の多様化を目指し、石油依存から脱却するための取り組みを強化しています。観光業、金融業、物流業などの非石油セクターへの投資を拡大しており、特にドバイは国際金融センターとしての地位を確立しています。さらに、UAEは自由貿易協定(FTA)や包括的経済連携協定(CEPA)を通じて、世界各国との貿易関係を強化しています。
人道支援と国際協力
UAEは人道支援活動にも積極的に参加しており、世界中で困難な状況にある人々への支援を行っています。例えば、シリア難民やイエメンの人道危機に対する支援を行い、国際社会での信頼を築いています。また、国際連合やその他の国際機関との協力を通じて、グローバルな課題解決に貢献しています。
まとめ
UAEの国際関係は、地域の安定と経済的利益を最大化するためのバランスを取ることに焦点を当てています。イスラエルとの関係正常化、中東の紛争への積極的な関与、ロシアのウクライナ侵攻に対する中立的立場、欧米諸国および中国との多角的な関係強化など、UAEは複雑な国際情勢の中で独自のアプローチを採用し、地域および国際社会において重要な役割を果たし続けています。これにより、UAEは地域の安定と繁栄に貢献し、世界的な影響力を拡大しています。