
イランによるミサイルやドローン攻撃が湾岸地域に広がる中、湾岸協力会議(GCC / サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェート])諸国は迎撃などの防衛措置を強化しながらも、2026年3月時点でイランへの直接的な報復攻撃には踏み切っていない。
アラブ首長国連邦(UAE)は、自国の基地や領土をイラン攻撃に使用させない方針を明言し、「緊張緩和」を訴えている。サウジアラビアやカタールなど他の湾岸諸国も同様に、軍事的対抗より外交的解決を重視する姿勢を示している。
米軍基地が集中する湾岸地域
今回、湾岸諸国が攻撃対象となった背景として多くの専門家が指摘しているのが、米軍基地や軍事インフラの存在である。
湾岸地域には米軍の主要拠点が集中している。
主な例として
- カタール:アル・ウデイド空軍基地
- バーレーン:米海軍第5艦隊司令部
- UAE:米軍航空拠点
- サウジアラビア:米軍支援施設
などがある。
イランはこれらの施設を米国の軍事拠点と見なし、攻撃対象になり得ると主張してきた。そのため湾岸諸国は戦争の当事国ではないにもかかわらず、米国の地域軍事ネットワークの一部として巻き込まれているという構図が生まれている。
GCCが報復攻撃に踏み切らない理由
湾岸諸国が自制している背景には、いくつかの現実的な要因がある。
第一に、湾岸諸国は“次の標的”になる危険を誰よりよく知っている
今回の衝突で、イランはUAE、サウジアラビア、カタール、バーレーン、クウェート、オマーンを含む湾岸地域を攻撃対象に広げてきた。UAEの国連ジュネーブ代表は、民間インフラやエネルギー施設が狙われたことを「容認できない」と非難しつつも、なお緊張緩和を訴えた。ロイターは、イランによる湾岸諸国への攻撃が、港湾・都市・石油施設を含む地域の中枢を脅かしていると報じている。報復に出れば、こうした攻撃がさらに激化する可能性が高いという計算が、各国の自制の土台にある。
第二に、ホルムズ海峡とエネルギー輸出が戦争拡大に耐えにくい
GCC諸国の多くは、石油・ガス輸出、物流、航空、金融、観光に依存している。ロイターは、イランの報復とホルムズ海峡の混乱が世界のエネルギー市場を揺らし、湾岸の石油インフラ不安が各国首脳の大きな懸念になっていると伝えている。さらにJPMorganは、今回の中東紛争激化を受け、GCCの2026年非石油部門成長率見通しを引き下げ、とくにバーレーンとUAEで下方修正幅が大きいとした。湾岸諸国にとって全面対決は、安全保障だけでなく経済モデルそのものを傷つけかねない。
第三に、各国は米国と協力していても、“対イラン戦争の当事者”にはなりたくない
UAEは「我々の基地はイラン攻撃に使われていない」「UAEは自国領土からイランへの攻撃に参加しない」と明言した。サウジアラビアについても、ロイターは、同国がイランに対し攻撃停止を求める一方で、米国に自国の空域や領土を対イラン攻撃に使わせなかったと報じている。これは、米国との安全保障関係を維持しながらも、自国が対イラン軍事作戦の発進拠点と見なされることを避ける動きだ。湾岸諸国は、同盟は維持しても、戦争の共同当事者に見られることは回避しようとしている。
第四に、GCCにはもともと「仲介」「調停」を重視する外交の蓄積がある
カタールの首相は3月8日、イランと対話を続け、緊張緩和を模索すると述べた。ロイターは、今回の戦争前にもオマーンが間接交渉を仲介していたと伝えている。大西洋評議会も、湾岸諸国、とくにオマーンとカタールが、長く仲介努力を支えてきたと分析している。つまり湾岸諸国は、イランへの不信を強めながらも、外交チャンネルそのものは切っていない。報復より交渉を優先するのは、今回だけの即興対応ではなく、この地域で積み上げてきた現実主義的な外交慣行の延長線上にある。
第五に、GCCは“弱いから黙っている”のではなく、選択肢を残した上で抑制している
ロイターは3月3日、イランの湾岸攻撃が続けば、GCC諸国が米国寄りの広範な対イラン連携に傾く可能性があると報じた。実際、サウジアラビアはイランに対し、攻撃を止めなければ報復の可能性もあると警告したとされる。一方で、3月5日のGCC・EU外相共同声明は、イランの攻撃を「地域的・世界的安全保障への脅威」と強く非難しつつ、主眼を「攻撃停止」に置いている。つまり湾岸諸国は、軍事的選択肢を完全に放棄したのではなく、現時点ではコストの高い報復より、抑止と外交圧力を優先している。
第六に、国内の社会安定を守る必要がある
湾岸諸国は、外国人居住者、国際企業、航空・港湾機能に大きく依存する。ロイターのBreakingviewsは、今回の危機がUAE、バーレーン、カタールなどの「海外資金の安全な受け皿」としての魅力を損なうと指摘した。戦争が深まれば、投資・物流・人の移動が鈍り、各国が進めてきた経済多角化戦略も揺らぐ。国家としては「怒りへの即応」より、「平時の信頼をどう守るか」が優先課題になりやすい。
イランもGCCを完全な敵にしていない
今回の危機で注目されるのは、イラン側も湾岸諸国そのものを全面的な敵と位置づけていない点である。
イランは過去の声明でも
「攻撃の対象は米軍施設であり、湾岸諸国そのものではない」
と説明するケースがある。
この背景にはいくつかの戦略的理由があるとみられている。
戦争の拡大を避けるため
もしイランが湾岸諸国すべてを敵とみなせば、
- サウジアラビア
- UAE
- カタール
- バーレーン
- クウェート
などが米国側に全面的に参加する可能性がある。
これはイランにとって戦線の拡大を意味し、軍事的負担を大きくする。
経済関係の維持
イランと湾岸諸国の間には
- 貿易
- 物流
- 金融
などの経済関係が存在する。
特にUAEは長年、イラン経済にとって重要な貿易窓口の一つとされてきた。
外交ルートを残す
湾岸諸国は西側諸国とイランの双方と対話できる数少ない地域プレーヤーでもある。
オマーンやカタールなどは、これまでイランと西側の交渉の仲介役を務めてきた。
イランにとっても、こうした外交ルートを維持することは戦略的に重要と考えられている。
「戦争当事者ではない国」が最前線に立つ構図
現在の湾岸地域では、米国やイスラエルとイランの対立が、米軍基地を抱える湾岸諸国を巻き込む形で広がっている。
その結果、湾岸諸国は
- 攻撃を受けながらも
- 直接的な報復には踏み切らず
- 緊張緩和と外交を模索する
という難しい立場に置かれている。
同時にイラン側も、湾岸諸国を全面的な敵とすることは避けようとしているとみられる。
こうした相互の計算の中で、湾岸地域では現在、戦争の当事者ではない国々が安全保障の最前線に立つという複雑な構図が生まれている。
湾岸諸国がここまで自制している最大の理由は、イランに遠慮しているからではなく、報復がもたらす不利益のほうが大きいと判断しているからだ。各国はすでに攻撃を受け、防空と警戒を強めているが、同時に自国領土を対イラン攻撃の拠点にしない、外交チャンネルを維持する、エネルギーと経済の混乱を最小化する、という共通の戦略を取っている。現時点のGCCの自制は、感情ではなく、地理・経済・安全保障を踏まえた計算の結果とみるのが最も正確だ。
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