
アラブ首長国連邦(UAE)のモハメド・ビン・ザイード大統領(通称MBZ)は8月7日、モスクワを訪問してロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談しました。これは1年以内で2度目の公式訪露で、両首脳は今後5年間でロシアとUAEの貿易額を現在の約115億ドルから倍増させる目標で合意しました。
ロシアのウクライナ侵攻(2022年)以降、両国間の貿易は急増しており、ロシア政府によれば2022年の貿易額は前年比68%増の90億ドルに達したとされています。
この背景には、UAEが2018年にロシアと「戦略的パートナーシップ」を締結して以降、経済・投資・エネルギー分野を中心に協力関係が加速的に発展している現状があります。
制裁回避の受け皿となるUAE
ロシアとUAEの経済的結びつきは、ウクライナ戦争の勃発後に飛躍的に強まりました。西側の制裁や動員令を逃れたいロシア人富裕層や企業がUAEへ流入し、現在では約4,000社ものロシア企業がUAEで活動していると報じられています。
UAEは伝統的に米国の重要な同盟国(軍事・情報面で緊密)ですが、同時にロシアにとって中東で最も重要な経済パートナーでもあります。UAE政府はロシアのウクライナ侵攻を公式に非難しつつも、対露制裁には加わらず中立を保つ立場を取っており、紛争の早期終結を呼びかける姿勢を崩していません。
一方、急接近するUAEとロシアの関係は、米国にとってジレンマを生んでいます。バイデン政権下の米財務省は2023年、UAEをロシアの制裁逃れに関与する「重点国(country of focus)」に指定し、厳重な監視対象としました。
米政府の調査によれば、UAE企業が2022年後半に米国製の輸出管理対象品を500万ドル以上もロシアへ再輸出していた実態が判明しており、その中にはウクライナ戦線で兵器の制御に転用可能な半導体などが含まれていたといいます。
米・欧州当局はUAEに対し、対露輸出管理の徹底や疑わしい貿易の情報共有を求める外交働きかけを強めており、今後UAE拠点の企業への制裁発動も辞さない姿勢です。
米欧の圧力と中東における自国の経済利益との間で、UAEは綱渡りのバランス外交を続けている状況です。
米国の反応:インドとUAEで異なる扱い
ワシントンはUAEによる対露接近を警戒しつつも、現時点ではUAEそのものに対する直接的な制裁や懲罰措置は控えています。特に2025年に発足したトランプ政権は、同じロシアの友好国でも対応に差をつけています。
例えばトランプ大統領は、ロシア産原油を大量購入して戦争を「資金援助」しているとしてインドを公然と批判し、インドからの輸入品に対し追加25%の関税を課す措置を発表しました(累計関税率50%に引き上げ)。トランプ氏はメディアに対し、インドがロシアに資金を流すことで「戦争マシンに燃料を注いでいる」と非難しています。
一方で、UAEやサウジなど湾岸諸国には同様の高関税や制裁を科しておらず、表立った圧力は控えめです。この背景には、UAEがロシア・ウクライナ間の仲介役として果たす重要な役割があります。戦争開始以来、UAEは複数回にわたりロシア人とウクライナ人捕虜の交換を仲介し、累計4,181人もの捕虜の解放に貢献したとされています。
また、UAEは米国にとって巨大な投資国でもあります。2025年3月、アブダビ首長国は今後10年で総額1.4兆ドル(約200兆円)規模の対米投資を行う枠組みに合意し、AI(人工知能)や半導体、エネルギーなど先端分野で米国との経済連携を一段と深める姿勢を示しました。
こうした仲介者・投資国としての側面から、米政府はUAEを頭ごなしに制裁することを避け、慎重に対話を続けているものとみられます。
自国利益を最優先するUAEの外交方針
今回のモスクワ訪問について中東情勢の専門家アンナ・ボルシチェフスカヤ氏は「UAEはロシアとの戦略的パートナーシップを重視しており、今後も関係深化を続ける意思を示した」と評価しています。また「UAEはこれまで通り、ロシア・米国・中国のいずれか一国だけに肩入れするのではなく、複数の大国との関係をバランス良く維持する多角的な外交を志向している」とも指摘しました。
実際、モハメド大統領は今回のプーチン氏との会談でも「ロシアとの関係はかつてなく加速している」と強調する一方、米国との安全保障協力や中国との経済関係も並行して深めています。中東の安全保障面では依然として米軍の駐留や武器供与にUAEは依存していますが、モハメド大統領は米国の意向に左右されない自主独立の外交をアピールしており、ロシアとの関係強化もその一環といえます。
こうした方針から、UAEは今後もロシアとの経済協力を継続・拡大させる見通しです。
もっとも、ウクライナ戦争の行方次第では情勢が変わる可能性もあります。トランプ米大統領は就任直後から戦争の早期終結に意欲を見せ、2025年内の停戦実現に向けた米露首脳会談を計画しています。
仮に停戦合意が成立すれば米国による対露制裁圧力も一定程度緩和され、UAEに対する「制裁回避の抜け穴」という見方も和らぐでしょう。しかし停戦が実現せず長期化する場合、米国が第三国(UAEやトルコ、中国など)への二次制裁に踏み切る可能性も指摘されています。
モハメド大統領は「米中露いずれの籠(バスケット)にも卵を一つだけ入れることはしない」との姿勢を鮮明にしていますが、今後そのバランス外交が米国の容認しうる限界点を試す展開になるのか、注目されます。現状ではロシアとUAEの蜜月関係が続き、アメリカの制裁網に一石を投じる状況となっていますが、その行方は依然不透明です。
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